2016年4月1日金曜日

映画:ゴーストライター

2010年公開のロマン・ポランスキー監督作品。
ロバート・ハリスの小説『ゴーストライター』が原作。

元英国首相の自伝をゴーストで書くことになったライターの、ちょっとした苦悩を扱った映画でしょ、という先入観を持って、出だしだけ観てみようと思って観始めたのだが、途中でやめられなくなった。
これはもうけものの映画だった。
そりゃそうか、なにしろポランスキーだもんね。

巨匠と称されることの多いロマン・ポランスキー監督の作品といえば、有名どころでは「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナタウン」「テス」「戦場のピアニスト」などがある。
妻が惨殺されたり、少女への淫行容疑で逮捕されたり、国外逃亡したりと、私生活でも話題が多い。
しかし、なんといっても、映画作りの腕はすばらしい。

この「ゴーストライター(原作は「ゴースト」)」も、出だしからただの1カットも意味のないシーンはなく、配置されている小道具や風景もすべて意味がある。
ひょっとしてポランスキーが大がかりなセットを使うのは、作品に関係のないものがひとつでも写りこむのを避けるためかもしれない。

俳優の演技も計算しつくされていて、さぞかし何度もリハーサルして、また何度もカット撮りをして、ねらいすました演技を採用するのだろう。

主人公のゴーストライター役はユアン・マクレガー。
いま気づいたのだが、この配役には名前がないのではないか?
一度も名前を呼ばれていないし、本人もいわない。
元首相役のピアース・ブロスナンからはずっと「私のゴースト」と呼ばれている。

ユアン・マクレガーのなんとなくゆるい、パッとしない、しかし神経質なところもある飄々としたゴーストライター役の演技が、なかなかすばらしい。
ファンになってしまった。

そして、かつては「007」を演じたこともあるピアース・ブロスナンの元イギリス首相役も、なかなか食えない。
押しだしの強い、いかにもやり手の政治家的な感じなのだが、ところどころほころびを見せる性格破綻的な部分や、人格的弱さをうまくちらつかせ、最後に明かされる意外な秘密を効果的にしている。

単純明快な、ある意味「ばか」っぽい007に比べると、ずいぶん複雑な演技になっていて、人は成長するものだなあと感慨をおぼえる。

女優陣も悪くない。
元首相の妻役はオリヴィア・ウイリアムス、秘書役のキム・キャトラル、いずれも魅力的なキャラクターを演じていて、楽しめる。

ショッキングなエンディングが用意されているが、もちろんここには書かない。
人によってはかなりショックを受けるかもしれない。
このあたりの作りも、さすがポランスキーというところだろう。

あ、そうそう、音楽もすばらしい。
アレクサンドラ・デスプラ。
「真夜中のピアニスト」「クィーン」「英国王のスピーチ」「グランド・プダペスト・ホテル」「真珠の耳飾りの少女」「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」「ハリー・ポッター」、そりゃすばらしいわな。

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