2016年4月10日日曜日

映画:カウスピラシー(Cowspiracy)

環境破壊の問題のなかでも、地球温暖化の問題はゴア元副大統領の「不都合な真実」などで注目され、いまでも大きな問題として人類のみならず全生物のまえに立ちはだかっている。
地球温暖化などない、と主張する学者や政治家もいるが、無視できない深刻な問題としてとらえられているのが主流だ。

この映画はゴアの「不都合な真実」に大きな影響を受けて問題意識を持った若者が、単身、さまざまな場所に出かけたり人に会ったりしてして、自分なりに解決の方法を探していく、という場面からスタートする。

この映画の特徴として、一貫してひとりの若者の「個人的」な視点から問題を見ているということで、それがこの映画に説得力をあたえている。

この「カウスピラシー」とほぼ同時期に観た映画に「コーポレーション」というドキュメンタリーがある。
こちらも世界がおちいっている絶望的な状況を描いた内容で、重厚な問題提起をしているのだが、個人的視点が用いられていないために、客観的ではあるけれど観客は問題に自身を移入しにくい。
一方「カウスピラシー」は徹底して個人的視点で作られているので、わがこととして問題をとらえやすい。
実際に私は自分自身をこの映画の作り手に重ねあわせて観ていた。

さて、地球温暖化の問題をとらえるために、作者は多くの環境団体のスポークスマンにインタビューを試みていく。
その過程で、彼はあることに気づく。
大気に温室効果をもたらすガスは二酸化炭素、メタンガス、フロンなどいろいろあるが、いま世界でもっとも問題にされているのは化石燃料の燃焼で発生する二酸化炭素である。
しかし、映画の作者は、もっと大きな割合で温室効果をもたらしているものがあることを知る。

それは畜産・酪農である。
牛や豚などの家畜が出す温室効果ガスは、地球全体のじつに半分以上をしめ、化石燃料の比ではないのだ。

映画の作者は途中から方向性を変え、酪農がもたらす温室効果について調べたり、そのことについてインタビューをつづけていく。
その過程で、自分がひょっとして、生命の危機にもかかわるおそろしいことに首をつっこんでしまっていることに気づく。

実際、この問題に関わったことで殺された多くの人たちの情報も出てくる。
観ているこちらもけっこう震えあがる。
世の中って恐ろしいのね、私の知らないところで、暗くて大きな力がうごめいている、そしてそれはお金や権力にかかわることらしい。

私はこの作者が心底心配になった。
が、作者は執拗に問題を追求していく。
最初に出てきたいくつかの有名な環境保護団体のスポークスマンも、酪農による温室効果ガス排出の問題になると一様に口を濁したり、口を閉じたり、逃げたりしはじめる。
登場する環境保護団体は、グリーンピース、シエラクラブ、オセアナ、アマゾンウォッチ、NRDCといった、世界的に有名なものばかりだが、彼らもまた、多額の寄付金をもらっている業界について批判的な言動はできないようなのだ。

結局、作者は、この問題を解決するには、車に乗るのをやめたり、電気をちまちまと節約したりすることではなく、完全菜食主義「ビーガン」になること以外ない、と結論づける。
けっこうショッキングな結論だが、とても説得力がある。

私は菜食主義ではなく、それどころかお肉も乳製品も、玉子も魚も大好き人間だが、この映画を観てちょっと生き方を変えてみようかと思った。
もちろんいきなりは難しいだろうが、トランジションの考え方ですこしずつ移行していくことは可能かもしれない。
それも楽しみながらだったら。

この映画はネット上で完全無料で全編公開されている。
日本語字幕もついているので、ぜひじっくりと観てほしい。
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